「ARによる情報配信で、スポーツ観戦はどう変わる?」 – 5Gで加速するスポーツテック

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2019年1月30日に開催されたイベント「5Gで加速するスポーツテック」。そこで行われたセッションの中から、今回は日本電気株式会社(NEC) 新事業推進本部 マネージャー 大橋一範氏の「『AR』を用いた新たなスポーツ観戦スタイル」をご紹介します。2020年のオリンピックも間近になった今、AR技術の進化がどこまで進んでいて、5Gがどのようにスポーツ観戦に貢献できるのか…これをお読みになれば分かります。

観戦の興奮を妨げない、ARコンテンツ配信を目指して

2018年9月のインカレ水泳(日本学生選手権水泳競技大会)を舞台に、NECとNTTドコモ、そしてテレビ朝日が共同で、ARを利用したスポーツ観戦の実証実験を行いました。競技中、登場した選手の情報やタイムなどをリアルタイムにHoloLens(Microsoftのヘッドマウントディスプレイ)に表示する実験です。

「競技情報をリアルタイムに、そして観戦者が視線を動かさなくてもいい位置に配信することを目指しました。競技場には電光掲示板などの情報配信手段がありますが、それを見るには視線を競技から外す必要があり、熱中度が下がってしまいます。そこで今回は徹底的に、観戦者の視線の先に情報を表示するようにしました」

実験当日、HoloLensに投影された映像もセッション内で上映されました。それを見ると各選手の情報が、スタートを切る前には選手の頭上に、選手が泳ぎ出してからは対面する観客席に表示されるよう、工夫されていることが分かります。またターン時には、タッチするプールサイド上に順位やタイムが表示されていました。これなら現場の臨場感を味わいながら、欲しい情報を楽に見ることができます。

5G / MECの活用により、配信の遅延を1ms単位で削る

「タイムなどは現場で計測されたデータをもらい、それをリアルタイムにHoloLensに表示させました。コンマ1秒を争う競技データをリアルタイムに表示するには、5G / MEC(モバイルエッジコンピューティング)を活用しています」

仮にLTEを使った場合、モバイルのシステムへデータをアップするだけで10ms、さらにサーバ処理が入ることで100msほどの遅延が発生する可能性があります。それではスポーツ観戦では致命的な遅延になりかねないと、実験ではMECで折り返す構成が採られました。カメラからの映像と計測データの画像処理を、会場内に設置したMECサーバで行って5Gで配信することで、遅延を限りなく抑えることができたのです。

「実験後、参加者からとったアンケートでは、AR情報配信にポジティブな意見が9割、ARがつくことでチケット単価が上がったり、ARで広告が配信されたりすることにも、半数以上から好意的な反応を得ることができました。ただ情報の見せ方には解決すべき点があることも分かりました」

5GによるARコンテンツ配信、その課題とは?

ネットワークにおける技術的な課題は、大橋氏は「5Gが主流になっていけば、インフラ関係者の多大な努力により、おのずと解決されるだろうと思っています」と楽観的でしたが、運用面・セキュリティ面では検討すべき点があると語ります。

「色々なデバイスがつながるようになると、スタジアム内で安定した通信サービスを提供するためのインフラが望まれるようになり、基地局やアンテナが多数必要になるかもしれません。またセキュリティ面でも考えるべきことがあります。今回は選手情報や映像など、様々なコンテンツを利用していますが、そういう情報が不特定多数に流れないようにする仕組みも検討していく必要があるでしょう」

2020年まであとわずか。諸々の問題が解決されてARコンテンツの配信が実現し、より感動的なスポーツ観戦ができることを期待しましょう。

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