「マーケティングに活かすキャッシュレス決済」 – 5G×モバイル決済

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イベント風景 - マーケティングに活かすキャッシュレス決済

日本におけるQRコード決済の先駆者、株式会社Origami(オリガミ)。そのマーケティングディレクターを務める古見幸生氏が、2019年3月20日に開催されたイベント「5G×モバイル決済 〜決済から広がる周辺サービス~」のステージで語った、キャッシュレス時代のマーケティングとは? その概要をお届けします。

日本でいちはやくQRコード決済を実施したOrigami

「インターネットで支払う」という行為を簡単に実現するものとして、Origamiは当初、ECからサービスをスタートしました。スマートフォンを利用してECでショッピングをする場合、購入ボタンをタップすることで品物が届き、また請求が発生します。これと同じことを店頭で行えるようにしたのがQRコード決済だと、古見氏は説明します。

つまりECサイトの購入ボタンを押す代わりに、店頭のQRコードをスキャンすることで、購入手続きが完了するわけです。しかしクレジットカードと違い、ECの非対面型決済には、本人がその場でサインをして、「支払をした」という証拠を残す手続きはありません。そこで同社では、非対面型決済の技術を対面店で利用していいのかどうかについて、経産省や金融庁に十分確認を取った上で、2015年10月にスマホ決済のサービスをスタートしました。

新しい金融ビジネスモデルをつくるために

Origamiはなぜ、スマホ決済サービスに着手することにしたのでしょうか。

「かつての電話には3分10円という料金がかかっていまいた。これはNTTへのインフラ代です。金融ビジネスもこれに似ていて、ATMの使用料がかかっていますし、クレジットカードだと数パーセントを店舗から決済手数料として徴収します。これも専用のインフラを使っているからです」

しかし通信の世界ではインターネットを利用すれば、FacebookやSkypeのように、ほぼお金はかからなくなっていますから、金融業界もインターネットを基盤にすれば同じようなことが起こる可能性があります。

こうした中、当社は金融プレイヤーの一員として、インターネットの技術を使いながら、金融業界でも成り立つビジネスモデルをつくろうとしているのです」

EC決済などオンラインで流通している金額は14兆円、一方、リアルなオフラインの世界での決済市場規模は140兆円もあると言われており、後者に食い込める新しいビジネスモデルをつくれば市場も大きく、また新しい金融の共同体がつくれるのではないかという思惑があると、古見氏はOrigamiの戦略を語ります。

加盟店向けにマーケティングツールを提供、ユーザーのメリットにもつなげる

国内145万ヶ所、海外1,000万ヶ所(2019年末予定)で利用可能な「Origami Pay」ですが、Origamiではその数を増やすために、加盟店向けのサービスとしてマーケティングツールを提供しています。購入情報を活用することで販促に役立てられるというものです。しかも煩雑な個人情報の管理も必要ありません。

管理画面から、決済した顧客の総数や、新規顧客、リピーター、休眠顧客などのセグメンテーションができるだけでなく、顧客にメッセージやクーポンを送付する機能も搭載されています。Webの世界ではアクセスログの取得や統計解析は当たり前となっていますが、実店舗でそこまでやろうとすればゲートやカメラを設置するなど、コストも手間もかかってしまいます。しかし顧客に「Origami Pay」を利用してもらうことで、そうした設備がなくても、Webマーケティングと同様のことが可能となるのです。

スライド:一目でわかる購買状況

ポイントカードと違い、例えば雨が降るなどのリアルタイムな環境の変化に合わせ、顧客のスマホにプッシュ通知でクーポンを送ることもできるため、これを活用している某衣料品チェーン店では、「Origami Pay」利用者の客単価を4,000円台から7,000円ほどにアップさせることができたという事例もあるといいます。

店舗に限らず、行政や地域の金融、人の移動や循環など、地域の活性化を考える立場の人にも、キャッシュレス決済を巧く使ってもらいたいと、古見氏は言います。

「ある商圏の中に、Origami Payのような決済サービスを使う人・使えるお店を確保しておけば、同じ決済サービスを使っている人が商圏外や海外からもやって来て、その商圏で買い物をしてくれる、さらにその人たちが地元に戻って地元のお店でも使う…という循環ができ、お金をぐるぐる回す仕組みができます」

スライド:キャッシュレス決済を地域活性化に生かす

青森市・JR東日本との取り組み

「Origami Pay」を利用した具体的なマーケティング事例として、古見氏は青森市・JR東日本とOrigamiが共同で行っている取り組みを挙げます。この取り組みの中で、JR東日本は、自社が発行している新幹線車内サービス誌「トランヴェール」に青森市内で利用できるクーポン(QRコード)を掲載し、青森市内では市バスやレンタカー、飲食店や物産館でクーポンを取得・利用できるようにしています。こうすることで一人の「Origami Pay」ユーザーが、どのようにクーポンを取得・利用したかを把握できるようになります。

まだ検証中とのことでしたが、結果がまとまれば、ユーザーが地元内で買い物をしているのか、新幹線での旅行客なのか、どのような回遊ルートをとっているのかなどの分析に役立ちます。これを利用して観光のモデルコースをつくることも一つの目的としているそうです。

オープンな企業姿勢と積極性で、ビジネスを生み出す

こうした実証実験で得たデータは、参加企業に対してオープンにしているのも、Origamiの特徴です。情報をオープンにする取り組みの最たるものと言えるのが、「提携Pay」です。これはOrigamiの加盟店ネットワークや決済方法を無償でオープン化したもので、企業・店舗がリリースしている独自アプリの中にOrigami Payの決済機能を組み込み、Origamiのパートナー企業となることができます。

スライド:Origamiの決済機能を事業者に提供

「自分の店だけで使える決済機能は、正直持っている必要がないと言えます。ですからもっといろんなところで使えるように、加盟店ネットワークも解放していきます。もちろんアプリ自体は皆さん(パートナー企業)のアプリなので、購買情報は皆さんにお渡しします。これを巧く使えば、新しい施策もできるのではないかと思います」

「提携Pay」を使えば自社の店舗で買い物をしたユーザーが、他のパートナー企業の店舗を利用していれば、その情報も自分たちのデータとして捉えていくことができるため、商品開発やマーケティングに活用していくことも可能になるといいます。

活用事例が増えることで金融ビジネスにもつながると、古見氏は語ります。

「我々は金融事業者として皆様に安心・安全をお届けするのが一番の目的ですが、便利でお得につながる新しいビジネスモデルを皆さんにどんどん提供していきたいと思っています」

スライド:未来の金融

5Gの普及が進むことで、マーケティングに活用できるデータを大量かつ自由に取れるようになれば、企業や店舗にとってはより効率的なビジネスが、消費者にとってはより快適なショッピングができる世の中になりそうです。


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