2019年1月30日、東京・渋谷のドコモR&Dサテライトスペースにて行われたイベント「5Gで加速するスポーツテック」から、今回は株式会社no new folk studioの代表、菊川 裕也氏のセッションをご紹介します。同社が開発する最前線のウェアラブルコンピュータと、考え抜かれたマネタイズ手法、そして社会貢献の姿勢には、5Gイノベーションを実践するにあたって大いに参考になるものがあります。
歩行・走行時のデータを収集、「正しい走り方」の分析が容易に
「日常を表現にする」をミッションに、新しいプロダクト/サービス/プラットフォームを創造する企業、no new folk studio。その代表である菊川氏は、自社製品のスマートフットウェア「ORPHE TRACK(オルフェ・トラック)」を履いてステージに現れました。外見は単なる靴ですが、その中には加速度センサーやモーションセンサーが入っており、スピードや角度などのデータをリアルタイムに測定・計算しています。これをスマートフォンやPCのアプリで分析すれば、歩幅や歩容(歩き方走り方の特徴)、着地時の足の角度などを正確に知ることができます。

発売開始当初の「Orphe」は、履いた人の動きに合わせて音と光を発する演出的な要素が強く、ダンサーやアーティストに愛用されていました。しかし菊川氏は次第に、日常の中で誰でも履ける靴をつくろうと思うようになります。そして現在はトラッキングに特化した「ORPHE TRACK」の開発に取り組んでいます。菊川氏が特に注目しているのは、ランニング市場です。
「国内だけで約900万人のランナーがいて、その約30%が膝に痛みを感じているというデータがあります。最近は膝への衝撃をケアするため、走法を意識している人もいますが、一般的には自分の走り方が本当に正しいのかを分析することは難しいでしょう。我々は『ORPHE TRACK』を履いて走った時に得られるセンサーデータと、従来の測定器を使って計った値との相関を研究し、速度、足の回転数、歩幅については96%以上、プロネーションやフットストライクなどフォームに関わるデータでは98%以上の相関がとれるアルゴリズムを完成させました」
これに加え同社では、「ORPHE TRACK」を履いて走ったコースや、一歩一歩の着地時の値を参照できるスマホ用アプリ「ORPHE TRACK App」を開発しました。つまり「ORPHE TRACK」を履いていれば誰でも簡単に、専門の施設・測定器で計測するのと同様の歩容データを得られ、自分の歩きや走りをチェックできるようになるということです。
ビジネスとして、社会貢献として、拡がる可能性
「価格は普通のランニングシューズに1万円追加していただくくらいを想定しており、記録アプリは無料にする予定です。記録を解析して、走り方の指導をするところで課金するビジネスモデルを考えています」
「ORPHE TRACK」で得た“パーソナルフットデータデータ”を活用して、豊かな社会づくりに貢献する計画もあると、菊川氏は言います。NTTドコモグループのIoTプロダクションメーカー、39meisterとは、スマホを介さずに直接インターネットと「ORPHE TRACK」との通信ができる仕組みをつくろうとしています。これが完成すればスマホを持っていない子供や老人の位置情報を靴から取得できるようになり、「見守り」にも役立つでしょう。
また三菱UFJ信託銀行とは、保険や医療、フィットネスなど健康に関するサービス事業者に、フットデータを効率的に渡す仕組みを検討中です。実現後には、各事業者のスムースなサービス展開に貢献するものとなり、「ORPHE TRACK」ユーザーの健康維持や医療費削減などのメリットも生まれそうです。

「5Gが本格化した際には、リアルタイムにコーチができる人をマッッチングするサービスをやってみたいと思っています。例えば一般の人が、プロに走法を教えてもらうのは難しいことですが、リアルタイムにセンサーデータがストリーミングできるのであれば、仮にプロのコーチがその場にいなくても、そこにいるのと同じレベルでコーチングが出来るようになるでしょう。またスケジュールが空いているコーチとのマッチングも簡単になるでしょう」
5Gによって、スマートフットウェアの可能性はますます拡がっていきそうです。「ORPHE TRACK」、そしてno new folk studioの今後の展開からは目が離せませんね。
次回は日本電気株式会社(NEC)によるセッションをご紹介する予定です。