2019年2月20日に開催されたイベント「5G×ネットワークスライシング~5Gで実現するネットワーク優先制御」から、NTTネットワークサービスシステム研究所の本間俊介氏の講演「ネットワークスライシングでできること・やりたいこと」の概要をお届けします。

クラウド×ネットワークで、新たな可能性を生み出す
「標準化団体である3GPPは、5Gの特長として大容量、多量接続、超高信頼・低遅延を挙げており、ネットワークスライシングもこの文脈で語られることが多いのですが、今回はもう少し幅広い視点でお話したいと思います」(本間氏)
まず本間氏はネットワークスライシングを「ネットワークリソース(帯域・遅延・接続エリア)およびサーバリソース(CPU、メモリ、ストレージ)を切り出して、必要な時に必要な分だけ使えるようにすること」と定義し、「コンテンツプロバイダをはじめとしたサードパーティの皆さんが、自分たちの提供するサービス要件をインフラ事業者に伝え、インフラ事業者がそれに適したスライスをつくって提供してあげる。サードパーティの方々はそのインフラを、自分たちのサービスの一部としてエンドユーザーに提供できるようにすること」と、ネットワークスライシングの概要をまとめました。
これが実現すれば、OTT事業者(オンラインのコンテンツ配信事業者)や大学、更には、異なる産業の法人が、通信インフラまで加味したサービスやシステムを開発することができるようになって、新しいビジネス創出が可能になります。そしてユーザーはインフラではなく、価値を感じたコンテンツに対してお金を支払いサービスを受けることができます。このような世界観が将来の通信インフラの在り方となるのではないかと、本間氏は期待します。
この実現に向け、サービス内容に応じたスライスを構築・提供する共通プラットフォームをつくる研究開発に取り組まれているとのことです。スライス・プラットフォームは、クラウドが持つオンデマンドやユーザビリティ、ネットワークが持つエンドツーエンドの接続性を組み合わせることで、新しい可能性を生み出すことができると本間氏は言います。

GUIからスライスをつくるデモンストレーションも
ステージでは、2018年11月、NTT R&Dフォーラムで公開されたネットワークスライシング活用デモ(コンセプトデモ)が紹介されました。本デモでは、低遅延や大容量といった通信要件を持つアプリケーションに対して、適切なスライスを構築・提供するところを見せたそうです。
一例として、遅延の揺らぎに敏感なアプリケーションに対して、遅延制御機能を有するスライスを提供することによって通信品質を確保し、遠隔地からのスムースな制御を可能にするといったデモが紹介されました。なお利用エリアや属性、遅延などを設定していくことで簡単にスライスをつくれるGUIも、デモの一部として紹介されました。

ネットワークスライシングの利用アイディア
その他、スライスの利用アイディアとして、本間氏は以下のようなものを挙げています。
1. MVNOのサービスプラン拡充(Enhanced MVNO)
例えば特定のアプリを使っている人だけに、動画などのコンテンツを優先的に見られるようにすることができます。また現状、モバイル固定網で通信が切れてしまうようなケースでも、キャリアをまたいだスライスができると、一枚のネットワークで管理できるかもしれません。
2. コンテンツ専用ネットワーク
スライスの一番の強みはコンテンツごとに適切なネットワークを提供できることなので、コンテンツプロバイダが専用ネットワークをつくって提供すれば、それが「売り」になってくるでしょう。
対戦型のゲームなどでは、マッチングされたユーザー同士の通信にMEC(Multi-accessEdge Computing)を利用し、足回りもきっちり提供すれば、高いユーザーエクスペリエンスを提供できます。これができると、賞金がかかったトーナメントもオンラインで開催できるようになり、eスポーツを発展させて行くことができるでしょう。
またイベント会場(スタジアムなど)にMECサーバを置いて閉域ネットワークを構築、サーバのリソースはキャリアの方を使えば、イベント主催者はAR端末を持ち込むだけでサービスを提供できるようになります。
3. Enhanced企業用VPN
出張先にDaaS(Desktop as a Service)サーバを置き(キャリアは出張先のものを使用)、どこでも快適に仕事ができるようになります。
4. センサ用ネットワーク
スマートシティなどではセンサデータを収集することが増えていますが、収集するデータの多くには緊急性がありません。そこでスライスを利用して、オフピーク時にだけ通る格安のネットワークの構築し、データ収集用に提供するという使い方も考えられます。
5. 実験用ネットワーク
キャリアワイドで実験環境をつくるのは大変ですが、スライスを使えば、商用網と切り離した広域ネットワークが構築できるかもしれません。

最後に本間氏は次のように語り、講演を締めくくりました。
「これまでネットワークは、ただ使われるためのものでしたが、これからはサービスを高める存在になっていく必要があります。またネットワークの価値は、コンテンツがあって初めて生まれるものですから、コンテンツプロバイダがどういうものを求めているのか、それを実現するためにどういう機能をネットワークに具備していけばいいのかを議論していくことが一番重要です」