「5Gがバーチャルタレントの価値を高める」 –5G×XR

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5GとXRによって、バーチャルタレント・ビジネスの幅が拡がる――2019年4月24日に開催されたイベント「5G×XR:5Gで広がるXRの世界」での講演で、Activ8株式会社代表取締役 大坂武史氏は語りました。本稿ではその講演の詳細をご紹介しましょう。

講演者の大坂氏の写真

テクノロジーを駆使して、タレントをデジタル化

Activ8はバーチャルタレントのプロデュースを行っている企業です。同社を代表するタレント、キズナアイは2016年12月、YouTubeに公式チャンネルを持ったのを皮切りに、現在ではテレビに出演したり音楽アーティストとしてリアルライブを開催したりと、活動の幅を拡げています。

現在、同社が運営するバーチャルタレント支援プロジェクト「upd8(アップデート)」では約60のチャンネルを展開し、配信コンテンツの撮影やVRシステムの開発、モーションキャプチャースタジオの運営まで手がけているとのことです。

キズナアイをはじめとした、upd8に所属するバーチャルタレントのイラスト

「当社は『生きる世界の選択肢を増やす』というミッションのもとに活動しています。――現実世界の他に、理想の世界をデジタル(VR)の中につくれる時代が来ていますが、それを成立させるには、デジタルであることを活かせるコンテンツが必要です。そしてそのコンテンツの中心は“人”だと、私は思っています」と、大坂氏はバーチャルタレント・プロデュースの意義を語ります。

メディアやコンテンツがアナログからデジタルへと変化していますが、コンテンツの中心、例えばマンガの主人公や舞台の登場人物といった“人”の領域には、これまでテクノロジーが介在してきませんでした。しかし昨今、CGやモーションキャプチャーのテクノロジーが進んできたことによって、タレント自体をデジタル化することが容易になってきました。ここに「バーチャルな存在が世界的に活躍するようになった理由がある」と説明します。

リアルな人と同じ収益モデルを再現できる

「バーチャルYouTuberとしてのキズナアイは、YouTubeの流行に合わせ、人がやっていたことをデジタルで代替したという捉え方が正しいと思います。キズナアイはデビューしてから、人間のYouTuberが稼いでいるのと同じ方法で収益を上げてきました。動画の視聴回数に応じて支払われる広告料や企業とのタイアップ動画で収益を得ていますが、デジタルであること以外、人と変わりません」

氏は他に、アメリカで活動し、150万人のフォロアーを持つMiquela Sousa(ミケイラ・スーサ)や、イケメン化してデビューしたカーネル・サンダース、日本のimma(イマ)ら、バーチャルインフルエンサーや、ライブ配信でユーザーから“投げ銭”をもらうことを収益モデルとしている『にじさんじ』を例に、バーチャルタレントの台頭を説明します。

バーチャルタレントならではの強みとは?

大坂氏はバーチャルタレントの利点として、CGなので見た目を自由にできること、またユーザー共創体験型のイベント構築ができるインタラクティブ性を例に挙げ、ポテンシャルの高さを語ります。

「今、キズナアイはYouTubeに2チャンネルを持ち、そのうちのひとつには約250万の登録者がいます。国別でファンの内訳を見ると、実は日本のファンは30%以下で70%以上が海外のファンです。海外では日本のアニメが受け入れられていますが、アニメキャラのような外観を持つキズナアイも受け入れられやすかったのでしょう。――日本のYouTuberの悩みは海外進出が難しいことですが、見た目を好きに設定できるということも相まって、海外でも日本のバーチャルYouTuberが受け入れられることが実証されたのだと思っています」

チャンネルのフォロワーの国籍や年齢層の内訳を示したスライドの写真

バーチャル音楽アーティストとしての成功事例

昨今、音楽アーティストのビジネスモデルは、CDを売るモデルからサブスクでの配信や、リアルライブ、その会場でのマーチャンダイズにシフトしていますが、キズナアイも昨年末に4,000人規模のライブを成功させています。このようにバーチャルな存在であっても、人間のアーティストが展開しているビジネスモデルを再現できることを実感したと、氏は言います。

また同社は昨年のクリスマス、バーチャルシンガーYuNiによる300人規模のVRライブを実施し、チケット販売、VR内でのギフティング、期間限定グッズなどを展開、黒字化することに成功しました。YuNiが各視聴者の目の前まで来る演出や、視聴者が贈った花束をYuNiが手に取る演出など、デジタルならではのインタラクションが好評だったといいます。

会場でVRライブの動画が流された際の写真

「生身の人間のアーティストが行える演出には限界がありますが、デジタル化されることで可能性が拡がってくると感じます。最近ではMarshmelloというDJが『フォートナイト』というバトルロイヤルゲームの中で行ったバーチャルライブには、全世界1,000万人が参加したという話も聞いています。現実世界なら10万人規模でもかなり大変ですが、バーチャルなら数の限界を超えられる可能性がありますし、開催場所も問わなくなってきています――そしてそれを担保する上で、5Gという通信環境はとても大事だと考えています」

5G×VRにより、どこにいても好みのエンターテイメントに参加できるとしたら、市場はより大きく、より多くのビジネスチャンスが生まれるかもしれません。なおこれを実現するインフラ検証の話は、株式会社 時空テクノロジーズ代表取締役CEO 橋本善久氏の講演「5G-XRライブへの挑戦」でも触れられていますので、そちらもぜひご一読ください。

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