2019年4月24日、東京・渋谷のドコモR&Dサテライトスペースにて、「5G×XR:5Gで広がるXRの世界」と題したイベントが開催されました。エンターテイメントはもちろん、医療や教育、製造現場など、様々な領域で活用が期待されているXRですが、5Gによってどのような変化がもたらされるのでしょうか。その概要を株式会社Moguraの代表取締役であり、Mogura VR News編集長を務める久保田瞬氏が語ってくれました。

VR/ARの未来
まず久保田氏は、ショルダーホンとスマートフォンの画像を投影し、「大きく重い、電話をかけることだけしかできないショルダーホンが、20数年かけて、薄く軽く小さい、これひとつで生計をたてることもできれば、地球の裏側とつながれて、老若男女使える簡単な道具に進化した」ことを説明しました。つまり、このスマホの例のように、ゴーグルの形状は変わっていくということです。
「VR/AR開発を手がける企業は、5~10年後に普及させることを目指していますが、皆が(現在あるような形状の)VRゴーグルをかけて街を闊歩する…という姿は考えない方がいいでしょう。もっと軽いグラス型のデバイスや、VR/ARが一台で切り替えられる機能など、現状では難しいと思われていることをゴールとして、VR/ARの主要なプレーヤーは走り続けています」
開発する側が描いている世界観の例として、氏は1枚のイラストを投影しました。そのイラストの中央にはゴーグルをかけた二人の人物が、VR表示された商品の3Dモデルを見て、何かを打ち合わせている様子が描かれています。周囲にはバーチャルで打ち合わせに参加している人物のアバターが座っていたり、空間に商品の資料が浮かんでいたりしています。

「このような打ち合わせが当たり前になってくると、VRなのかARなのか、もはやどうでも良くなってきます。現実には存在しないものがバーチャルで見えていたり、逆にVRの方に現実が入ってきたり、『認識する現実(空間)が変わる』というのがVR/ARの本質です」と氏は説明します。
「2次元に表示された画面のユーザーインターフェースから、空間そのものを使う3次元の空間インターフェースへとコンピューティングが変わっていくというのが、最終的なかたちです。今はゲームや産業用アプリなど、アプリケーションの枠に収まっているXRですが、ゆくゆくは空間にインターフェースを表示するための“OS”として捉えるべきものとなっていきます」
VR/ARに5Gが必須なワケ
XRが実用化された未来を迎えるためには、大容量・低遅延で、高画質とリアルタイム性を実現できる5Gが必須だと久保田氏は言います。そして2月にバルセロナで開催された世界最大規模の携帯通信関連見本市「MWC Barcelona 2019」に展示されたXRコンテンツから、5Gの特長を活かしたものを、いくつかピックアップして紹介してくれました。
例えば、LG社の3D-VRの高画質コンテンツや、360度、どこからでも見られる3Dアニメーション(Streaming volumetric AR)、htc社の3D-CGコンテンツをクラウド配信し、エッジコンピューティング側で処理することで快適に動くVRゲームなどです(ただし、htc社のデモは5Gエミュレータを使った疑似的なもの)。

また氏は、ARをウェアラブルデバイスで実現しようとすれば、常時接続が必要になってくることにも言及しました。例えば全員がARグラスをかけるような世の中になった時のことを例に、氏は5Gの重要性を次のように説明します。
「私がAR空間に何かの画面を出したとします。それが皆さんにも同じように、同じ位置に見えないと意味がない。この同期が世界中どこにいてもできるようにならないと、なかなか皆がARを使って情報を共有できる状態にはなりません。その場所がどういう空間構造なのか、誰がどういうアクセスをしてそのデータをいじっているのかなどの情報を、常にサーバー上にアップロードして同期させていく必要があるわけです。街全体をAR空間にするには、常時接続で広範囲の空間座標を共有しなければならず、5Gが必須となります」
VR/ARはどこまできたのか?
では現実のVR/ARがどこまで進んできているかというと、VRの普及率は1%、一体型のデバイスによって接続コードだらけの状態から解放されてから、まだ1年しか経っていません。しかし製品サイクルが1.5~2年と速く、すでに解像度が2~3倍になったり、より便利な機能が搭載されたりした次世代型の「足音」が聞こえ始め、各社が特許を取り合っているという状況だとのことです。
「VRは高性能になり、手軽かつ安価になってきています。1~2年くらい前には、VRは高価だとか、センサーをたてなければできないと思われていましたが、今ではそうした課題を解決したデバイスが出てきました。今年中には身体を激しく動かしても追随できるデバイスがリリースされるという話もあり、2~3年前では信じられないことができるようになっています。ヘッドセットも多様化が進んでいて、外観も変わってくることになります」
一方ARは、市販のデバイスがほぼ存在せず、汎用性のあるデバイスの発売を待たなければいけない状況ですが、サムスン、ファーウェイが開発に取り組んでいると表明しており、またアップルも開発していることは間違いないと見られています。ARが「ポストスマホ」と言われていることを示すように、スマホメーカーが取り組んでいるのが面白い現象です。
「アップルが2020~2021年にリリースすると言われており、その辺りで一気に普及するデバイスが出てくるのではないかという期待が高まっています。しかしアップルが出せばひっくり返るかというとそうではありません。映像を出力する光学系など、技術的なデファクトスタンダードがないからです」
画面表示ひとつにも網膜照射やウェーブガイドなど、いくつかの方式があり、どれが主流になるかを各社が試している最中で、かつ「先ほどお話ししたような同期技術もないので、ARはまだまだR&Dが必要な段階です」と久保田氏は語ります。
VR/ARと5Gの組み合わせ
今後、VR/ARはどのような形態で5Gと組み合わせられていくのでしょうか。現状考えられている方法としては2形態があります。ひとつは一体型ヘッドセットにSIMカードを直挿し、サーバー側でレンダリング処理した映像をヘッドセットで見るスタイル、もうひとつは5Gスマホをヘッドセットとつないで、スマホ経由で映像を描画するスタイルです。MWCでも、クアルコム社がこの2形態の製品(試作型)を展示していたとのことです。どちらが主流になるかまだ分からないものの、ここ1年くらいはスマホ接続型が徐々に増えているようだと、久保田氏は言います。
クアルコム社がMWCで展示したVRゴーグル。一体型 5Gスマホ接続型
さらに氏は今年のMWCで、クアルコム社が発表したパートナーシップ企業の一覧を示し、そこにハードウェア、スマホOEMメーカー、プラットフォーマーやキャリアが並んでいることを指摘して、「5Gスマホ+VR/ARデバイス」を念頭に置いたパートナーシップであろうと説明しました。そして次のように講演を締めくくりました。
「個人的にはスマホとVR/ARデバイスをケーブルでつなぐと、有線時代のヘッドセットと同じになってしまうと思います。果たしてそれがウェアラブルとして、日常的に使うのに適しているのかどうかは、世の中に問いかける必要があると思っています」
次回はリブゼント・イノベーションズ株式会社 代表取締役/株式会社 時空テクノロジーズ代表取締役CEO 橋本善久氏の講演「5G-XRライブへの挑戦」をお届けする予定です。
※VRの普及率:ここでの普及率1%とは、「フェイスブック社の目標である10億人としたときの1%(1,000万人)以上」を指し、厳密な意味での普及率ではない
※ウェアラブル:ウェアラブルデバイス、ウェアラブル端末などとも呼ばれる。腕時計やアクセサリー、衣服の体裁をとり、着用が可能でかつそのまま使用できるコンピューターのことを指す