2021年4月14日に「5G時代のアプリケーション開発とは」というタイトルで講演がありました。本講演では、5G時代に期待される低遅延アプリケーションの開発において、重要な役割を担うとされるMEC(Multi-access Edge Computing)についての紹介が行われました。
本記事では、日本仮想化技術株式会社の「たまおき のぶゆき」氏による講演の内容について簡単に紹介します。
5Gの代表的な「3つ」の特徴
まず、たまおき氏は基本的なおさらいとして「5Gが持つ代表的な特徴」として「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」の3つを挙げ、4Gとの違いを具体的な数字を用いて解説しました。
なお、この3つの特徴に関しては理解しておくべきポイントが3つあります。
①3つの特徴すべてを同時には網羅できない
例えば、超低遅延は達成できたとしても、超高速と多数接続までは達成できないケースもあります。
②上りと下りの比率を変更可能
4Gでは不可能だった上りと下りの比率を(例えば1:10から5:5のように)変更できます。
③低遅延は無線区間での改善
5Gの低遅延は無線区間における改善となります。つまり、無線から先のインターネット接続に関わる部分の遅延は解消されません。
5G導入のタイミングで追加される2つの特徴
5Gを導入すると、前述した3つの特徴に加えて以下に挙げる2つの特徴も活用可能となります。
④ネットワークの優先制御
ネットワークを仮想的に分割するネットワークスライシング技術の活用で、(例えば動画配信では広帯域を優先確保するなど)モバイルネットワークでの優先制御が可能となります。
⑤モバイルネットワーク内におけるコンピューティングリソースの活用
コンピューティングリソースを利用する際、4GではCDNを介する必要がありました。5Gではその手前にあるエッジコンピューティングのリソースが利用できるため大幅な低遅延が実現できます。
なお、エッジコンピューティングには、デバイスで実行する「デバイスエッジ」、無線とインターネットの間(キャリア)で実行する「テレコエッジ」、クラウドで実行する「クラウドエッジ」の3つがあります。そして、テレコエッジのコンピューティングで処理することを「MEC(Multi-Access Edge Computing)」と呼びます。
デバイスエッジとクラウドエッジのコンピューティングリソースは、4Gでも5Gでも基本的には変わりません。そのため、5Gにおける超低遅延の実現には、MECの存在が大きなポイントとなります。
※ここまでの内容については以下の記事にて詳細が解説されているので、あわせてご覧ください。
「5Gにまつわる3つの誤解」 -5G×ライブコンテンツ
https://5g-innovation.com/report/livecontents-2019-event-eport3/
汎用MECと用途専用MEC
MECには大きく分類して「汎用MEC」と「用途専用MEC」があります。汎用MECは仮想マシンやコンテナを使用したアプリ開発に利用され、サービスの多くはIaaS機能として提供されています。一方、用途専用MECはクラウドゲームなど特定のプラットフォームサービスとして利用されています。
なお、2021年5月31日現在で商用提供されているMECサービスは以下となります。
MECでアプリケーション開発
続いて、MECでアプリケーション開発をする方法について解説します。なお、ここでは汎用MECサービスを用いたアプリケーション開発を想定しています。
まずは、MECサービスを利用するためのリソースの貸し出しを依頼します(*1)。依頼する際は、一般的なパブリッククラウドと同様に、リソースの配置先(東京/大阪など)、リソースの種類やスケール(vCPU/メモリ/ストレージなど)を決める必要があります。また、サービスによってはGPUリソースの貸し出しを依頼できる場合もあります。
*1
具体的な貸し出し方法や価格については、各サービスのWebページなどで確認してください。なお、一般的にはパブリッククラウドで提供されているリソースよりも高い値段に設定されているケースが多いようです。
MECアプリの基本的な考え方
5G時代のモバイルネットワークでは、デバイス、MEC、パブリッククラウドの3つがコンピューティングリソースとして存在することになります。この3つを上手に組み合わせることが、MECアプリ開発における肝となります。その具体的な考え方として、たまおき氏が挙げた例が以下の3つとなります。
①パブリッククラウドや業務システムとの連携
MECが持つリソースはパブリッククラウドと比較すると少ないため、単体で動くのではなく処理の一部をMEC上で稼働させることを想定。
②プロキシサーバ・KVS(Key-Value Store)・CEP(Complex Event Processing)などをMEC上で処理し、その他はクラウド側のリソースを利用。
③低遅延に適した技術(WebRTCなど)の採用も検討
MECの活用検討案
続いてMECをどのように活用するかについて、たまおき氏が挙げた4つの例を紹介します。
①5Gの低遅延を活かす
- MECの地理的特性(東京なら東京、大阪なら大阪のリソースを活用)を活かす
- MECアプリでプロキシサーバ的に処理を繰り返してスピードアップを図る
- パブリッククラウドとの非同期処理
②閉域網サービスを利用したセキュアアプリ
- 閉域網サービスとして業務システムと接続
- デバイスからモバイルネットワークを経由た業務システムへのセキュアな接続
- End-to-Endでセキュアな接続を実現
③MEC上のGPUリソースを活用
- デバイス側のリソースが足りない場合に計算リソースとして活用
- AI推論処理などのGPUコンピューティングとして活用
- デバイスとMECとの多層GPU処理を実現
④リアルタイムストリーム処理
- 監視カメラデータなどの推論処理をMEC上で実施
- アノマリー(異常)検知との組み合わせ
- 時間・場所をメタ情報として活用
これらの検討例が活かされた具体的な例としては「VR/ARのリアルタイム配信」「高画質なクラウドゲーミング」「リアルタイム監視可能なスマートカメラ」があります。
※参考記事
■MECの仕組みを使ってリアルタイム性を実現した複数対戦型のARゲームの実証実験
https://www.telekom.com/en/media/media-information/archive/worlds-first-mobile-edge-mixed-reality-multi-gamer-experience-564004
■CEPEC2019で公開されたVR卓球ゲームの実証実験
https://www.famitsu.com/news/201909/07182824.html
MECへの期待と現時点で存在する制約
MECの利用が広がれば、XR(VR、AR、MRなど)やドローン操作のような、低遅延が絶対条件となるアプリケーションの開発も進むことでしょう。また閉域網を想定したセキュアなアプリ(業務システムのモバイル対応、防犯カメラシステムとの連携)にも期待ができます。
一方で、現時点ではキャリアやサービスごとに方式や制約が異なっており、どれを選択すべきかがわかりにくいという課題もあります。さらに、MECを用いたアプリケーション開発のノウハウが不足している点も懸念材料の一つです。また、現状ではMECの仕様がキャリアに縛られてしまっているので、キャリアごとにMECをデプロイする必要があります。デプロイ時には場所やネットワーク性能を意識しなければならないなど制約も存在します。
まだまだMECに関する情報発信は不足しているのが実態です。しかし、MECの利用が進めば、5Gが持つ低遅延を十分に活かしたサービスの提供が可能となります。
「今日のお話で、MECに対して興味を持っていただけたのなら幸いです。そして、このセミナーをご覧になった皆さんとは、いずれはどこかでMECについてディスカッションをする機会が得られたらと思っています」とのメッセージでたまおき氏は講演を締めくくりました。
※参考URL
「MobiledgeXの開発者向けサイト」
(MECで何ができるかを理解するために有用なサイトです)
https://developers.mobiledgex.com/
「EdgeGap」
(パブリッククラウドとMECのリソースのマネージメントサービスをクラウドゲーム向けに提供する米ベンチャー企業のWebサイトです)
https://edgegap.com/
本セミナーで使用したスライドはこちらになります。
https://www.slideshare.net/VirtualTech-JP/5g-5gmec-245939390