「ネットを空気に変える」のコンセプトの下、あらゆる分野でインターネットの活用を促進している株式会社オプティムは、様々な先進技術を用いて、これまでになかったようなサービスを次々に打ち出しています。今回の取材では、映像のAI解析を利用して同社が展開している最先端ビジネスの現在と、5Gの浸透がそれらにどんな影響をもたらすかについて、株式会社オプティム マネージャー 鈴木浩嗣氏に伺いました。

現在、オプティムが手がけている代表的なプロジェクトの一つが“スマート農業”です。農業従事者の数は年々減少し、高齢化も進む中、同社は「楽しく、かっこよく、稼げる農業」の実現に貢献するために、2017年に「スマート農業アライアンス」を設立、2019年2月末の段階で農家(生産者)や自治体、大学などをはじめ、参加団体数は1,000を超えました。
「スマート農業アライアンス」に参加している生産者に、同社は「ピンポイント農薬散布テクノロジー」などの最新のスマート農業技術を提供しています。これはドローンに搭載したカメラで指定された場所を撮影して、その画像をAIで解析、害虫が発生しているエリアと虫の種類を特定し、最適な農薬をドローンでピンポイントに散布するというものです。
「広い田んぼを見回るだけでも、農家の方にとっては一日仕事になってしまいますが、ドローンを飛ばして農薬が必要な場所を特定し、さらに散布にもドローンを使えば作業の負担が軽くなるだけでなく、農薬も最小限ですみます」と鈴木氏は説明します。

5Gの高速・大容量による、作業効率の向上に期待
現在は一旦ドローンカメラを回収し、オンプレのサーバで解析にかけるという方法を取っていますが、5Gがあれば画像データをドローンから直接サーバにアップロードすることも、解析結果をリアルタイムに現場で受け取ることもできるようになり、作業時間をより短縮できるようになるだろうと、鈴木氏は期待しています。
「また5Gの浸透に合わせてクラウドのAIサービスが充実し、安価で高速な処理ができるようになれば、解析用のサーバを用意するための初期投資も抑えられるでしょう」
なお収穫された米はすべてオプティムが買い取り、「スマート米」として販売するというのが「スマート農業アライアンス」のビジネスモデルです。農家の作業負担・経済的負担をかけることなく収入にも貢献しつつ、さらにAIやドローンの活用促進の道も拓ける仕組みになっています。
小売業界の省力化、セキュリティ向上への取り組み
この例でも分かるように、先進技術を普及させるには単に技術開発をするだけではなく、その活用方法やビジネスモデルまで考案することが必要だと鈴木氏は言います。例えば同社では小売業界向けにいくつかのチャレンジを行い、AIやネットワーク活用のメリットを実証しています。
その一つが2018年4月から1年間にわたって、佐賀大学内に開店した「モノタロウAIストア powered by OPTiM」です。労働力不足に対する省力化に先進技術で貢献したいというオプティムと、従来のECサイトの他に、様々な販売チャネルを検討したいというモノタロウとのタッグで実現しました。
決済は、買い物客自身が専用のスマホアプリ「モノタロウ店舗」で、商品のバーコードを読みこむことで行われますが、実はこれはECサイトで「ショッピングカートに入れる」のと殆ど同じ仕組みです。ただ実際に商品を手にして確かめられ、買った後はすぐに持って帰れるというのが来店のメリットです。
「他社では無人店舗(実際は監視役のスタッフが存在するので、省力化店舗)を展開するために数億円をかけているようですが、モノタロウAIストアの場合、入退店時に通過するゲートと店内の監視映像用のカメラ5台、その映像をAIで解析して不正行為を検知するためのサーバの費用など、必要最低限のサービス構成でイニシャルコストを抑えてご提供しています。当社としては省力化の課題解決や流通のオムニチャネル化などに、IoTやAIをどう役立てられるのか体感することができ、その後の施策に役立てることができています」
省力化されたポップアップ・ストアの可能性を実証
モノタロウに続き、オプティムでは、10日間限定で表参道ヒルズでオープンされたポップアップストア「PAUL & JOE ACCESSOIRES(ポール & ジョー アクセソワ)」へ、省力化を行うソリューションである「OPTiM AI Camera」を提供しました。入店するには事前にスマホアプリのダウンロード、IDとパスワード、メールアドレス、クレジットカード情報の登録を求めましたが、来店者の2人に1人はすべての登録を行ってくれたといいます。
「20~30代の人々には登録への抵抗が少なく、入店者の商品購入率は高かったようです。登録いただいた個人データはその後、ECサイトへの誘導や新店舗への集客などに役立てられますし、カメラの映像からどういう人がどんなものを買ったかのマーケティングデータを取得することもできます。またキャッシュレス決済の大きなメリットは、現場でお金の処理をせずに済むことです。アルバイトを数人雇うだけで、出店場所を日々変えていくことも可能でしょう」
入店時の登録や出入り口に設置されたゲート、店内の監視カメラなどの影響か、万引き行為が皆無だったというのも、予期せぬ効果だったといいます。アプリのダウンロードや登録の簡素化など、今後対策を練るべき課題もありますが、「施策としてはやっていける」と鈴木氏は自信をにじませます。

映像解析したデータのマーケティング活用で、小売業に新たなビジネスモデルを
2019年、二子玉川にオープンした次世代型ショールームスペース「蔦屋家電+(プラス)」は、店内映像の活用方法が斬新な事例です。蔦屋家電が商品の展示スペースを家電メーカーにテナント貸しするのが基本的なビジネスですが、店内映像から、どの商品の前に、どのような人(年齢・性別など)が、どのくらいの時間立ち止まったかをオプティムのAIエンジンで解析し、それをマーケティングデータとしてテナントとなったメーカーに提供しています。
「次の製品づくりのためのマーケティングの場を、小売側で用意してあげようという考えのもとに展開しています。マーケティングのデータ収集を人が行うと人件費がかかりますし、来店者の見た目から年齢を判断するのはAIの方が正確です」
またこれまでのPOSマーケティングでは、商品を買ってくれた人のデータは取れても、買わなかった人のデータは取れません。“関心は示したものの買わなかった人”がどんな人なのかを調べ、そういう人々に買ってもらえる製品をつくることが、売上を伸ばすことにつながると考えれば、このデータはメーカーにとって貴重だと言えます。
全国店舗が5Gでつながれば、効率化や売上向上が現実のものに
この仕組みはメーカーに対するデータ提供サービスだけでなく、スーパーやドラッグストアなどでも応用できそうです。どこにどんな商品を置けば“関心は示したものの買わなかった人”が買ってくれる人になるかを、より簡単に分析できるようになるからです。5Gが日本全国に行き届くようになれば、小売大手ではフランチャイズ店全店からデータを収集・解析できるようになり、効率化や売上向上の施策を立てやすくなるでしょう。
映像のAI解析の組み合わせは、既存のビジネスを次のステージへと導き、また新たなビジネスを生む大きな可能性を秘めています。そして高速・大容量通信を実現する5Gが、近い将来、その可能性を一気に開花させることになりそうです。
オプティムでは小売以外にも、鉄道や製造、集合住宅など10業種に対して、学習済みの映像解析AIを既存のカメラと組み合わせて利用できるパッケージを提供しています。まずはこれらを利用しながら映像解析でどんなことができるのかを検討し、5G時代に備えておくことが、他社との差別化を図る第一歩と言えるかもしれません。
※オンプレ:オンプレミスの略。企業などが情報システムの設備を自社で保有・運用すること。以前はこの方式が標準であったが、クラウドの概念・サービスの登場によって対比的にこの用語が用いられるようになった。